流体の前に基礎知識 基礎知識の理解

非圧縮性流体

層流と乱流

まず、流体を学ぶ前に、流体とは何かから行きましょう。端的に言えば、流体とは気体と液体です。流れるもの、それが流体です。流体力学の何よりも面白いのは、気体と液体という物質の挙動が、同じ方程式で表されて、その通りに動くというところでしょう。とりあえず、やっていきます。

まず、流体の動きには大きく分けて2種類あります。

1) 層流 laminar flow    ねばねば きれいな レイノルズ数小
2) 乱流 turbulent flow さらさら みだれた レイノルズ数大

の2つです。層流はねばねばしたきれいな流れです。イメージとしては、はちみつを思い浮かべてもらうといいでしょう。はちみつは、ねばねばしていて、一方向だけに流れるきれいな流れです。一方乱流は、さらさらしたきれいな流れです。イメージとしてはタバコの煙を思い浮かべてください。スーッと煙が立ち上った後に、ぐちゃぐちゃっといろんな方向に流れが乱れるのをイメージできるでしょうか?あれが乱流です。もっと言えば、スーッと上がる部分は層流と言っていいでしょう。

また、一般にレイノルズ数というパラメータによって、流れが層流か乱流になるかが決まると言われています。これがなんなのかは後々説明します。

この2つの流れは性質に大きな違いがあります。しかし、世の中の流れはほとんど乱流です。基本は流体解析をすると言ったら、乱流を取り扱うことになります。

乱流は以下の4つの性質を持っています。

    1) 不規則性 : 乱流はカオス現象
    2) 拡散性 : 拡散して混ざる
    3) 散逸性 : 全てのエネルギーは摩擦で熱になる
    4) 流れという現象 : 空気や水で流体が変わったとしても、同じ流れが作れるということが言いたい


流体の物理法則

第1章では、いろんな物理法則を元に、非圧縮性流体の基礎方程式、特に熱流体も扱えるBoussinesq近似を導くことがゴールになります。そして、物理の法則というのは基本的に保存則です。非圧縮性では基本的に質量保存則と運動量保存則で、熱を扱う場合は、エネルギー保存則も加わります。圧縮性では、質量保存則と運動量保存則とエネルギー保存則に加え、状態方程式が加わります。

先に導くものを示しておきましょう。テンソル表記だと、以下のような感じです。

熱を考慮しない場合、熱エネルギー保存則と、運動量保存則の最後の項が無くなります。

$$
\begin{align}
&質量保存則 :\hspace{ 30pt } \frac{ \partial u_i }{ \partial x_i } = 0 \tag{1} \label{eq:scale-factor-1} \\\\
&運動量保存則:\hspace{ 24pt } \frac{ \partial u_i }{ \partial t} + \frac{ \partial u_i u_j }{ \partial x_j} = -\frac{1}{\rho} \frac{\partial P}{\partial x_i} + \nu \frac{\partial^2 u_i}{\partial x_j^2} + g\beta \Delta T \delta_{i 3} \tag{2} \label{eq:scale-factor-2} \qquad \\\\
&熱エネルギー保存則: \hspace{ 3pt }\frac{ \partial T }{ \partial t} + \frac{ \partial T u_j }{ \partial x_j} = \alpha \frac{\partial^2 T}{\partial x_j^2} + S \tag{3} \label{eq:scale-factor-3}
\end{align}
$$

 

ベクトル表記

$$
\begin{align}
&質量保存則 :\hspace{ 30pt } \nabla \cdot \mathbf{V} = 0 \tag{4} \label{eq:scale-factor-4} \\\\
&運動量保存則:\hspace{ 24pt } \frac{ \partial \mathbf{V}}{ \partial t} + (\mathbf{V} \cdot \nabla) \mathbf{V} = -\frac{1}{\rho} \nabla p + \nu \nabla^2 \mathbf{V} –  \beta \Delta T \mathbf{g} \tag{5} \label{eq:scale-factor-5} \qquad \\\\
&熱エネルギー保存則: \hspace{ 3pt }\frac{ \partial T }{ \partial t} + (\mathbf{V} \cdot \nabla) T = \alpha \nabla^2 T + S \tag{6} \label{eq:scale-factor-6}
\end{align}
$$

 

無次元化した式

$$
\begin{align}
&質量保存則 :\hspace{ 30pt }\frac{ \partial u_i^{\ast} }{ \partial x_i^{\ast} } = 0 \tag{7} \label{eq:scale-factor-7} \\\\
&運動量保存則:\hspace{ 24pt }\frac{ \partial u_i^{\ast} }{ \partial t^{\ast}}+ \frac{ \partial u_i^{\ast} u_j^{\ast} }{ \partial x_j^{\ast}} = -\frac{\partial P^{\ast}}{\partial x_i^{\ast}} + \frac{1}{Re} \frac{\partial^2 u_i^{\ast}}{\partial x_j^{\ast 2}} + Rib \Delta T^{\ast} \delta_{i 3} \tag{8} \label{eq:scale-factor-8} \qquad \\\\
&熱エネルギー保存則: \hspace{ 3pt }\frac{ \partial T^{\ast} }{ \partial t^{\ast}} + \frac{ \partial T^{\ast} u_j^{\ast} }{ \partial x_j^{\ast}} = \frac{1}{Re} \frac{1}{Pr} \frac{\partial^2 T^{\ast}}{\partial x_j^{\ast 2}} + S \tag{9} \label{eq:scale-factor-9}
\end{align}
$$

こんな感じの式を導出していきます。わかってみれば簡単なのでふへーと思って眺めといてください。


テンソル表記について

ここでは、ベクトル表記ではなく、テンソル表記を多用します。基礎方程式もテンソルで書きます。なぜなら、途中導出過程でテンソルを使わざるを得ないし、テンソルの方がわかりやすいからです。あとは好みです。ただ、ベクトル表記もテンソル表記もどっちも使えるといいかと思っています。

まず、テンソルとは何かからいきましょう。相対性理論で多用されるこの概念ですが、実にシンプルです。

    スカラー  scalar : 値のみの量。1つの値
    ベクトル  vector : 方向と大きさを持つ量。3次元空間なら、3つの組で表される値
    テンソル  tensor : 面の方向と大きさを持つ量。3次元空間なら、3×3の9つの組で表される値

ベクトルまでは力などでイメージできるでしょう。テンソルの一番身近なイメージは応力です。応力とは、物体に外力が加わる場合、それに応じて物体の内部に生ずる抵抗力のことで、一つの面にかかる力に対して法線応力(圧縮、引っ張りに対しての抵抗力)や剪断応力(ズラす力に対する抵抗力)といった、3方向の抵抗力が生じます。直方体を考える場合、面の方向を規定しなければ、応力が規定できません。でないと、物体の左の面から右方向にかかる力と、上の面から右方向にかかる力が同じ力ということになってしまいます。そんなわけはありません。よって、面の方向×力の方向の3×3成分で応力を表現する必要が生じてきます。x方向の面のx,y,z方向の力、y方向の面のx,y,z方向の力、z方向の面のx,y,z方向の力の9成分です。今はイメージが湧かなくても、応力については後々説明します。

また、先ほどは少し嘘をつきました。テンソルとは、ベクトルの上位概念であり、先ほどから説明している3×3(n×m)成分のものは2階のテンソルです。ベクトルは1階のテンソル、スカラーは0階のテンソルです。

難しく考える必要はなくて、0階のテンソル(スカラー)は1つだけの組の値、1階のテンソル(ベクトル)はm個の組の値、2階のテンソルはn×m個の組の値、3階のテンソルは、n×m×l個の組の値。それだけです。n×m個の成分は、行列に格納できるので、行列で表されることが多く、行列=テンソルと勘違いしそうになりますが、そうではありません。

 

また、本来テンソル(ベクトル)には反変・共変といった概念を扱いますが、直交座標を考える限り、反変・共変の区別はしなくても大丈夫です。テンソルについて、もっとわかりたい人は、物理のかぎしっぽ、のテンソル代数のところ、EMANの物理学の第2部「座標変換の理論」のところを読んでおくといいかと思いますが、今はこの程度の理解でいいでしょう。

 

さて、ここからはテンソルの性質について記述していきます。まず、添字が一つのものは、1階のテンソル、ベクトル量です。

$$
\begin{align}
&a_i :ベクトル量 \quad (i=1,2,3) \\\\
\end{align}
$$

例えば、

$$
\begin{align}
&a_i  = 0 \quad (i=1,2,3) \\\\
&\Leftrightarrow a_1 = 0, a_2 = 0, a_3 = 0
\end{align}
$$

こうなります。2階のテンソルだと、

$$
\begin{align}
&a_{ij}  = 0 \quad (i=1,2,3, j=1,2,3) \\\\
&\Leftrightarrow a_{11} = 0, a_{12} = 0, a_{13} = 0, a_{21}=0, a_{22}=0, a_{23}=0, a_{31}=0, a_{32}=0, a_{33}=0
\end{align}
$$

こうなります。ベクトルの足し算とかと同じですね。

ここで、Einsteinの総和則と呼ばれる、一つのルールを導入します。それは、同じ添字が一つの項に現れた時、内積をとるような操作をすることです。少し見ていきます。

$$
\begin{align}
&a_i b_i  = 0 \quad (i=1,2,3) \\\\
&\Leftrightarrow a_1 b_1 + a_2 b_2 + a_3 b_3 \\\\
&\frac{\partial u_i}{\partial x_i}  = 0 \quad (i=1,2,3) \\\\
&\Leftrightarrow \frac{\partial u_1}{\partial x_1}+\frac{\partial u_2}{\partial x_2}+\frac{\partial u_3}{\partial x_3}=0\\\\
\end{align}
$$

基本的に、テンソル表記では、この総和則を使って、div、発散を表現します。縮約をとるなんて言ったりします。本当は反変と共変で縮約をとるのですが、直交座標の場合は気にせず、全て同じもので縮約をとります。見たように、縮約をとると、内積をとるようなもので、スカラー値になります。テンソルといってもこれだけです。

基本的にテンソル表記では、\(x_1,x_2,x_3\)といった表記や、 \(u_1,u_2,u_3\)といった表記を使います。これは、座標のx,y,z、x,y,z方向の速度u,v,wと同じ意味です。表記としてまとめるために、こう書いています。

ここで、クロネッカーのデルタを考えます。

クロネッカーのデルタとは、

$$
\begin{align}
&\delta_{ij} =1  \quad (i=j) \\\\
&\delta_{ij}=0 \quad(i \neq j) 
\end{align}
$$

となるものです。これは実は、各成分を使って、2階のテンソルとして使うことができます。実は、クロネッカーのデルタは置き換えテンソルと呼ばれ、重要な性質があります。見ていきましょう。

$$
\begin{align}
a_i \delta_{ij} &= a_1 \delta_{1j} + a_2 \delta_{2j} +a_3 \delta_{3j} \quad (i=j) \\\\
& j=1の時 : a_1、j=2の時 : 1_2、j=3の時 : a_3 \\\\
&=a_j
\end{align}
$$

となります。クロネッカーのデルタをかけることで、添字がiからjに置き換わっているのがわかるでしょうか?これが置き換えテンソルと呼ばれる所以です。この性質は後々使うことになります。


常微分、偏微分、全微分

まあ、分かっているとは思いますが、重要なこともあるので、復習がてら微分についておさらいします。

常微分とは、今まで高校とかでやってきた微分です。\( \frac{df}{dx}\)となっていて、fがxだけの関数(f(x))になっている場合に、常微分と言います。独立変数が一つで、その変数で微分する場合です。

偏微分は、複数の変数からなる関数を、他の変数を固定して行う微分です。f(x,y,z,t)の関数になっている時、\( \frac{\partial{f}}{\partial{x}}\), \( \frac{\partial{f}}{\partial{y}}\), \( \frac{\partial{f}}{\partial{z}}\), \( \frac{\partial{f}}{\partial{t}}\)などなどです。

全微分は、全ての成分の変化量を考えます。f(x,y,z,t)のとき、全微分は以下のように表せます。

$$
\begin{align}
&df = \frac{\partial f}{\partial x} dx +\frac{\partial f}{\partial y} dy +\frac{\partial f}{\partial z} dz +\frac{\partial f}{\partial t} dt   \tag{10} \label{eq:scale-factor-10} 
\end{align}
$$

ここで、時間に対する全微分を取ってみます。ここで全微分は、微分と区別するために、大文字のDで表します。

$$
\begin{align}
\frac{Df}{Dt} &= \frac{\partial f}{\partial x} \frac{\partial x}{\partial t} +\frac{\partial f}{\partial y} \frac{\partial y}{\partial t} +\frac{\partial f}{\partial z} \frac{\partial z}{\partial t} +\frac{\partial f}{\partial t}  \\\\
&=\frac{\partial f}{\partial x} u +\frac{\partial f}{\partial y}v+\frac{\partial f}{\partial z} w +\frac{\partial f}{\partial t} \\\\
&=\frac{\partial f}{\partial t} + u_1 \frac{\partial f}{\partial x_1} +u_2 \frac{\partial f}{\partial x_2}+u_3 \frac{\partial f}{\partial x_3} \\\\
&=\frac{\partial f}{\partial t} + u_i \frac{\partial f}{\partial x_i}
\tag{11} \label{eq:scale-factor-11}
\end{align}
$$

この微分式を実質微分とかラグランジュ微分とか呼んだりします。ここで、\(u_1, u_2, u_3\)はx,y,z方向の速度です。

 

よく流体でEuler(オイラー)的視点、Lagrange(ラグランジュ)的視点と言ったりします。これは、実はこの辺が関わってきます。

流体を固定視点でみて考えるとき、偏微分を使います。そして、固定視点でその範囲に流れ込んでくる流体を考える視点をのをEuler的視点と言います。また、流体を移動視点で考えるとき、全微分を使います。流体に着目し流線に沿って付いて行って見るような考え方をLagrange的視点と言います。



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