流体の運動量保存則(5) 静圧と動圧の理解が大事

非圧縮性流体

重力項の消去

引き続き、流体の運動量保存則とはどのようなものになるかを考えていきます。やっとです。やっと今回で完結です。

前回、運動量保存則はここまで進んだのでした。

$$
\begin{align}
&\frac{ \partial \rho u_i }{ \partial t} =- \frac{\partial \rho u_i u_j}{\partial x_j} \ – \frac{\partial P}{\partial x_i} + \frac{\partial} {\partial x_j}\{ \mu (\frac{\partial u_i}{\partial x_j} +\frac{\partial u_j}{\partial x_i}) \} – \rho g \delta_{i3}
\tag{1} \label{eq:scale-factor-1} 
\end{align}
$$

ここで、圧力を、静止流体の圧力とそれ以外の圧力に分けて考えてみます。

静止流体とは、流体が完全に止まっている状態の圧力で、これを\(P_s\)、止まっている時からの変動分を\(P’\)とします。すると、圧力というのは、

$$
\begin{align}
& P = P_s + P’
\tag{2} \label{eq:scale-factor-2} 
\end{align}
$$

と表せるはずです。この時、まずは

$$
\begin{align}
&\frac{ \partial P }{ \partial x_1}, \frac{ \partial P }{ \partial x_2}, \frac{ \partial P }{ \partial x_3} = ?
\tag{3} \label{eq:scale-factor-3} 
\end{align}
$$

の3成分がどのような値になるか考えてみます。

さて、考えてみると、\(P_s\)は重力によってのみ

$$
\begin{align}
&P_s = \displaystyle \int_{0}^{ \infty } \rho g dx_3
\tag{4} \label{eq:scale-factor-4} 
\end{align}
$$

という式が成立しています。静止流体中には、重力の方向にしか圧力勾配は起きません。

よって、

$$
\begin{align}
&\frac{ \partial P }{ \partial x_1} = \frac{ \partial P_s }{ \partial x_1} + \frac{ \partial P’ }{ \partial x_1} =  \frac{ \partial P’ }{ \partial x_1} \\\\
&\frac{ \partial P }{ \partial x_2} = \frac{ \partial P_s }{ \partial x_2} + \frac{ \partial P’ }{ \partial x_2} =  \frac{ \partial P’ }{ \partial x_2} \\\\
&\frac{ \partial P }{ \partial x_3} = \frac{ \partial P_s }{ \partial x_3} + \frac{ \partial P’ }{ \partial x_3} =  -\rho g + \frac{ \partial P’ }{ \partial x_1}
\tag{5} \label{eq:scale-factor-5} 
\end{align}
$$

これらをまとめると、

$$
\begin{align}
&\frac{ \partial P }{ \partial x_i} =  \frac{ \partial P’ }{ \partial x_i} -\rho g \delta_{i3}
\tag{6} \label{eq:scale-factor-6} 
\end{align}
$$

そして、こいつを最初の\eqref{eq:scale-factor-1}式に代入してみます。

$$
\begin{align}
&\frac{ \partial \rho u_i }{ \partial t} = \ – \frac{\partial \rho u_i u_j}{\partial x_j} \ – \frac{\partial P’}{\partial x_i} + \frac{\partial} {\partial x_j}\{ \mu (\frac{\partial u_i}{\partial x_j} +\frac{\partial u_j}{\partial x_i}) \}
\tag{7} \label{eq:scale-factor-7} 
\end{align}
$$

となり、重力項が消えて綺麗さっぱりしました。ここからは、\(P’\)を、\(P\)と表記し直すことにします。つまり、あらかじめPが変動成分の方と理解できていれば記号を変えても構わないはずです。


仕上げ

最後の仕上げに、非圧縮の狭義の条件、\(\rho\): 一定を使います。すると、こう変形できます。ふー、終わり。

$$
\begin{align}
&\frac{ \partial u_i }{ \partial t} + \frac{\partial u_i u_j}{\partial x_j} = \ – \frac{1}{\rho} \frac{\partial P}{\partial x_i} + \nu \frac{\partial^2 u_i}{\partial x_j^2}
\tag{8} \label{eq:scale-factor-8} 
\end{align}
$$

あれ、何が起きたのでしょうか。まず、全体を\(\rho\)で割り、\(\nu = \mu / \rho \)で置き換えました。\(\mu\)が分子粘性係数で、\(\nu\)がそれを密度で基準化した分子動粘性係数です。

そして、変形した部分を考えてみます。

$$
\begin{align}
&\frac{1}{\rho} \frac{\partial} {\partial x_j}\{ \mu (\frac{\partial u_i}{\partial x_j} = \nu \frac{\partial} {\partial x_j} (\frac{\partial u_i}{\partial x_j} ) + \nu \frac{\partial} {\partial x_j} (\frac{\partial u_j}{\partial x_i} )
\tag{9} \label{eq:scale-factor-9} 
\end{align}
$$

となります。ここで、

$$
\begin{align}
&\nu \frac{\partial} {\partial x_j} (\frac{\partial u_j}{\partial x_i} ) = \nu \frac{\partial} {\partial x_i} (\frac{\partial u_j}{\partial x_j} )
\tag{10} \label{eq:scale-factor-10} 
\end{align}
$$

と変形できます。なぜなら、x_iとx_jは互いに独立変数だからです。微分同士は、独立変数の場合に限り順番を入れ替えても大丈夫です。高校の数学でやりますね。

ここで、連続式(質量保存則)を思い出してください。

$$
\begin{align}
& \frac{\partial u_i}{\partial x_i} = 0 \qquad \qquad (連続式)\\\\
& \nu \frac{\partial} {\partial x_i} (\frac{\partial u_j}{\partial x_j} ) = 0
\tag{11} \label{eq:scale-factor-11} 
\end{align}
$$

そう、これは消えます。よって、\eqref{eq:scale-factor-8}式の完成です。もう一回書きます。

$$
\begin{align}
&\frac{ \partial u_i }{ \partial t} + \frac{\partial u_i u_j}{\partial x_j} = \ – \frac{1}{\rho} \frac{\partial P}{\partial x_i} + \nu \frac{\partial^2 u_i}{\partial x_j^2}  \\\\
&時間項 \hspace{5pt} 移流項 \hspace{15pt} 圧力項 \hspace{5pt} (分子)粘性項 または 拡散項
\tag{12} \label{eq:scale-factor-12} 
\end{align}
$$

項の名前がそれぞれ付いていて、左から、時間項、移流項、圧力項、(分子)粘性項または拡散項と言います。

(分子)粘性項は、流体は分子粘性によって拡散していくので、(分子)粘性項と言ったり、拡散項と言ったりします。

また、これは「非圧縮等温流体」の運動方程式とも言えます。

運動量保存則とは、運動方程式を時間積分して導いたものなので、運動量を時間微分してきた本式は、実は運動方程式だったのです。

元々の\(\Delta x_1\)とか\(\rho\)を戻した式で考えてみます。

$$
\begin{align}
&\Delta x_1 \Delta x_2 \Delta x_3 \rho \hspace{10 pt} \frac{ \partial u_i }{ \partial t} =  \cdots – \frac{\partial P}{\partial x_i} \Delta x_1 \Delta x_2 \Delta x_3 \\\\
&\hspace{20 pt}m \hspace{40 pt} a \hspace{5 pt} = \hspace{15 pt} F
\tag{13} \label{eq:scale-factor-13} 
\end{align}
$$

Fの所の単位的にも、単位がわかりやすいから圧力の項を残しましたが、N/m2 / m ・m3 = N で合ってますね。

これにて、運動量保存則は終わりと行きたい所なのですが、もう一つだけ次回やってみます。

非圧縮等温の運動方程式と書いたのは、色々とこの式をベースに項が足されることがあるからです。例えば、電磁流体なら、磁場から受ける力を体積力として表現されて項が追加されたりします。

何か別の力を受けるときは、フィードバックとして項が足されたりして表現されます。

そういったものの中で簡単で比較的使われるBoussinesq(ブジネスク)近似という、熱流体の取り扱いの一つの方法について解説していきます。これは浮力の影響を考慮するものです。次回やってみます。

ここで今まで揃った式を書いてみます。

$$
\begin{align}
&質量保存則 :\hspace{ 30pt } \frac{ \partial u_i }{ \partial x_i } = 0\\\\
&運動量保存則:\hspace{ 24pt } \frac{ \partial u_i }{ \partial t} + \frac{ \partial u_i u_j }{ \partial x_j} = -\frac{1}{\rho} \frac{\partial P}{\partial x_i} + \nu \frac{\partial^2 u_i}{\partial x_j^2}
\tag{14} \label{eq:scale-factor-14}
\end{align}
$$

ベクトル表記だと、

$$
\begin{align}
&質量保存則 :\hspace{ 30pt } \nabla \cdot \mathbf{V} = 0 \\\\
&運動量保存則:\hspace{ 24pt } \frac{ \partial \mathbf{V}}{ \partial t} + (\mathbf{V} \cdot \nabla) \mathbf{V} = -\frac{1}{\rho} \nabla p + \nu \nabla^2 \mathbf{V} \tag{15} \label{eq:scale-factor-15}
\end{align}
$$

ベクトル表記も分かるでしょうか?移流項だけややこしいので展開してみます。

$$
\begin{align}
(\mathbf{V} \cdot \nabla) \mathbf{V} = (\frac{\partial u}{\partial x} +\frac{\partial v}{\partial y}+\frac{\partial w}{\partial z}) \mathbf{V} = (\frac{\partial u_1}{\partial x_1} +\frac{\partial u_2}{\partial x_2}+\frac{\partial u_3}{\partial x_3}) u_i = \frac{ \partial u_i u_j }{ \partial x_j}
\tag{16} \label{eq:scale-factor-16}
\end{align}
$$

ナブラとの内積の時ちゃんと中に入れてやるのだけポイントです。テンソル表記だろうが、ベクトル表記だろうが、どっちも同じです。世間的にはベクトル表記をするのが一般的なので慣れておきましょう。


静圧と動圧と全圧の正しい理解

まず、圧力項の中の\(P’\)を正しく理解せねばなりません。静止流体の圧力からの変動成分と書きましたが、これは動圧なのでしょうか?なんなのでしょうか?

まず、動圧と静圧についておさらいしましょう。

ベルヌーイの定理によれば、流れに沿った場所(同一流線上)では、

$$
\begin{align}
&P + \frac{1}{2} \rho v^2 = const  \\\\
&静圧+動圧+位置圧 = 一定
\tag{17} \label{eq:scale-factor-17} 
\end{align}
$$

と言っています。同一流線上とは、流れがあると、前あった位置の流体が動いてその軌跡が流線になりますので、同一流線上にあるとは同じ流体だということです。

この式自体は非圧縮のみで成立します。圧縮性は少し別の式になります。

シンプルに表現すると、静圧とは圧力エネルギーであり、動圧とは運動エネルギーであり、位置圧とは位置エネルギーです。そもそもこの式はエネルギー保存則からきています。

ここで、静圧と動圧の正体は何かについて、考える必要があります。

結論から言うと、静圧とは「流体にかかる実際の圧力」のことです。
動圧とは「流体が動くことによって変換される運動エネルギーを圧力の単位にしたもの」のことです。
同じように、位置圧は「位置エネルギーが圧力の単位になったもの」です。

静圧のみが僕らが圧力と感じるもので、他は違います。

どういうことなのでしょうか?
実際にかかる圧力は静圧です。例えば、流体の速度が速くなると、その分動圧が上がりますので、静圧が減ります。つまり、流速が速くなると圧力が減ります。

また、別の例だと、風によって人は圧力を感じると思います。この時感じている圧力はあくまで静圧です。どういう原理かと言うと、人という障害物があることで摩擦・垂直抗力により、風という流速を持った流体は速度が落ちて、人の場所で0になります。この時、速度分の持っていた動圧が静圧に変換されて、圧力を感じます。

位置圧も、全く同じことです。理解しやすい例として、大気圧をあげてみます。大気圧は、静圧でしょうか?位置圧でしょうか?

答えは、静圧ですね。位置圧の基準を地面にとったとすると、上空の方では位置圧は高くなります。反対に静圧、つまり大気圧は小さめです。これを同一流線上、つまり上空から真下に空気が流れて地表で止まっているとします。つまり、地表と上空は同じ動圧で位置圧だけが変化したとします。この時、ベルヌーイの定理から、位置圧が少なくなり、その分静圧が大きくなります。つまり、地表面では大気圧が大きくなります。

つまりは動圧も位置圧も、実際に感じる圧力ではありません。ただの、圧力が運動エネルギーや位置エネルギーに変換されたものを圧力の単位で表したものになります。

ちなみに、空気の場合はよっぽどスケールが大きくない限り、位置圧は大抵無視します。空気の重さはとても小さいからです。なので、よくベルヌーイの定理は、静圧+動圧=一定 と表したりもします。反対に水等の液体の場合は基本的に考える必要があります。

ちなみに、静圧+動圧の値を全圧と言います。

ここで、\(P’\)とはどのようなものかを考えてみます。\eqref{eq:scale-factor-2} 式より、流体の圧力を、静止流体の圧力と変動分として分解したのでした。

まず、\(P\)も\(P’\)も\(P_s\)も全て静圧です。実際にかかる圧力だからです。

つまり、P’の意味するところは、流体の流速が変わって、動圧が変動することにより、静圧が変動する分となります。動圧による、静圧の変動分がP’ということです。Pは全圧の値と等しくなりますが、意味としては違います。



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